
観たいなぁ…
既にご存じの大ヒット映画「トイ・ストーリー」の3作目を紹介します。パート3制作までには、皆さんの知らないところでいろんな事件が起こっていました。
「トイ・ストーリー」の製作会社であるピクサーが「スターウォーズ」のジョージ・ルーカスによって設立され、その後アップルのスティーブ・ジョブスが買収。
ピクサー社は、実はとんでもない苦労をし、様々な事件に巻き込まれながら成功を手にしていました。
ピクサーによる長編アニメ第一作である「トイ・ストーリー」が劇場公開される際、配給会社であるディズニーは、ピクサーが作り上げたキャラクターの権利は全てディズニー社に属するという契約を結びました。さらにディズニーは、続編を作る権利も所有する契約もしていました。
当時のピクサーは、まだ誰にも知られていない小さな小さなアニメ制作会社でした。さらに"コンピューターで作るアニメ"という未知の分野で長編アニメを制作するというリスクもあり、配給契約はディズニー社に有利なものになったのです。当時はピクサー社長であるスティーブ・ジョブスは映画に興味がなく、ディズニーとの契約にそれほど関心を払わなかったようです。
「トイ・ストーリー」は、ディズニーによって世界配給され、世界的な大ヒットとなりました。そしてその後は、沢山のアニメ会社がCGアニメを制作し、現在ではアメリカにあるアニメ会社のほぼ100%がCGアニメ専門になってしまいました。残念なのは、「白雪姫」で初めて長編アニメを制作したディズニー・アニメーション・スタジオまでもが手書きアニメのスタッフを解雇し、CGアニメ専門の制作会社になってしまったことです。
当時のディズニーの社長マイケル・アイズナーは、「ピーターバン2」のように、ディズニーの過去名作の続編を劇場で公開するのではなくDVDで発売する戦略をとっていました。知名度のある有名作品の続編を安く作り、ビデオ市場で簡単に儲けようという作戦です。
アイズナーは当然「トイ・ストーリー」の続編の制作を強く望みました。「トイ・ストーリー2」もDVDでのみ発売される制作費の安い100分のアニメ作品でした。
アイズナーの戦略は販売面では貢献したものの、できの悪い作品群を生み出してしまいました。ウォルト・ディズニーが作ったクオリティの高いアニメ作品の続編が粗製濫造され、世界中のディズニーファンががっかりしたのです。「トイ・ストーリー2」もこれと同じような運命になるはずでした。
しかし、「トイ・ストーリー2」の制作過程を見たピクサーの上層部は、素晴らしい出来になることを確信して、この続編を劇場用の長編にしようと試みました。きちんと制作費をかけてクオリティの高い作品を作ろうとしたのです。
当初、ディズニーとピクサーとの契約は劇場用アニメ3作品でした。「トイ・ストーリー2」は続編という扱いでスタートしたので、契約の3作には含まれていなかったのです。続編を作る権利はディズニー社にありました。なので、2だろうが3だろうがディズニーが勝手に作って良いという契約だったのです。しかし「トイ・ストーリー2」が劇場で公開されることになると、ちょっとややこしくなってきます。この「トイ・ストーリー2」は、続編という扱いなのか、それとも劇場用アニメという扱いなのか、人によってとらえ方が変わってくるのです。
ディズニー社は当然「トイ・ストーリー2」は続編だと主張します。ピクサー社は「トイ・ストーリー」「バグズ・ライフ」を製作したので、契約上は3本目の「モンスターズ・インク」まではディズニーが独占して配給権を持つと考えました。
ピクサー社は「トイ・ストーリー2」は劇場用映画なので「トイ・ストーリー」「バグズ・ライフ」「「トイ・ストーリー2」までが契約で、「バグズ・ライフ」以降はディズニーとの契約にとらわれないと主張したのです。
ここからは泥沼の戦いと化していきます。アイズナーは、それならば「トイ・ストーリー3」はサークル7・アニメーション社という全く関係ない会社に制作発注してディズニーが勝手に作ると表明しました。契約には続編はディズニーが好きなように作れるという項目が含まれています。なので、ピクサーはどうしようもありませんでした。さらにバズの声優を担当したティム・アレンはサークル7版「トイ・ストーリー3」の出演にOKを出してしまいます。これによりサークル7は、新たな脚本を仕上げました。その内容はファンにはがっかりするものです。
おもちゃ会社に作られたバズは沢山あるはずです。台湾で作られたバズは、世界中で自分と同じバズが作られていることを知ります。さらにリコールされていることがわかり回収されるのです。
このようにアイズナー率いるディズニー社は、ファンの期待を裏切り、クリエイターの気持ちを踏みにじりながら突き進んでいました。しかし、この泥仕合はあまり知られることなく水面下で行われていたこと、そして出来の悪いアニメでもそれなりに儲かってしまったという問題があり、アイズナーはディズニー社でますます力を付けていったのです。ディズニー社の株主達も儲かれば良いという立場を取り、アイズナーを支持しました。
ウォルト・ディズニーの孫であるロイ・E・ディズニーは、ディズニー社で役員として頑張っていました。彼が唯一の"ディズニー"の血を持っている人物でした。ロイは、アイズナーの金儲け主義に抵抗します。祖父であるウォルトが考えた良質のアニメ製作や子供達に夢を与えることの重要性を社内で叫び続けました。しかし、残念なことにロイの主張は退けられてしまいます。アイズナーも株主もロイの主張などどうでもいいことなのです。金さえあればいい、株価が上がればいい、と。
ロイは結局ディズニー社を辞めてしまいました。これによりウォルト・ディズニーの志はディズニー社からなくなってしまいました。もはやディズニーはディズニーでない。こういうコメントがマスコミに取り上げられましたが、時既に遅し。おおくのディズニーファンが失望したのです。
そんなタイミングで、面白いことが起きました。アイズナーが旗を振っていたディズニー名作の続編の売り上げが伸びず、その他の事業も不採算として失敗してきたのです。そして、ピクサーは相変わらずディズニーと揉め続けていたのです。ディズニーの株主達は一斉にアイズナーを非難します。そしてアイズナーは窮地に立たされてしまうのです。
2006年1月24日、電撃的な発表がなされました。ディズニー社はピクサー社の全ての株を購入し完全子会社化するというのです。私は驚き、困ったことになったなあと不安を感じました。ピクサーは戦いに敗れアイズナーに屈し、今後はつまらないアニメ会社に成り下がってしまうことをニュースは意味していました。きっとピクサーのクリエイター達は社を離れ、別の会社に移ることになります。そうなるとせっかくジョン・ラセターが何十年もかけて作り上げた素晴らしいピクサー社は事実上解体されることになるのです。
しかし、日本で報道されていない詳細をネットで調べていくと、ワクワクする内容を発見しました。確かにピクサーはディズニー社に買収されてしまいました。しかし新しい組織図を見るとロイ・ディズニーがトップに復帰、アイズナーは社を去り、アニメ統括役員としてピクサーを作ったジョン・ラセター、ビジネス部門の役員としてピクサー社長だったスティーブ・ジョブスが名を連ねていたのです。
契約上、経理上はピクサーは買収された形になりますが、人的に見るとピクサーがディズニーを吸収したともみえるのでした。
こうして新生ディズニー社は、ウォルト・ディズニーの血を引くロイを中心に、クリエイティブ・マインドを持つピクサーのメンバーが引き継ぐことになりました。これによりディズニーとピクサーの契約問題は解消され、アイズナーが続けていた金だけ儲かれば良いという経営スタイルも見直されることになりました。当然サークル7による「トイ・ストーリー3」の制作は白紙に戻され、ピクサー・チームによる正当な続編として企画が再始動されたのです。
こうして様々な出来事を得て「トイ・ストーリー3」が動き出しました。監督だったジョン・ラセターはディズニー社の要職に就いたので、監督はできません。勿論企画会議やストーリーの構築時には関わりますが、制作はピクサーの若手スタッフに引き継がれました。ピクサーのスタッフ達はラセターのアニメ作りを何年も支えてきた強者です。3も「トイ・ストーリー」「トイ・ストーリー2」の設定を引き継ぎファンが満足できる話になりました。声優も今までのシリーズのメンバーが再結集しています。
「トイ・ストーリー3」の宣伝はとても巧みに行われました。3をイメージした複数のポスターを制作し町中のビルボードを使いました。これはかなり長期間に及ぶプロモーションです。公開が近づくとAppleのiPhone4の発売に合わせ、タイアップが行われました。これはディズニーの役員でありAppleのCEOであるスティーブ・ジョブスが動いています。
「トイ・ストーリー3」は、アメリカで公開され大ヒット作品になりました。そして日本でも2010年夏で一番のヒットになるそうです。世界的にも大ヒットしており、満足度も非常に高いそうです。
ディズニー社を株主やアイズナーから取り戻し、ディズニーファンが望んでいる"夢の国"を復活させたロイ・E・ディズニーは、2009年12月に他界しました。きっと天国から「トイ・ストーリー3」の大ヒットを心から喜んでいるに違いありません。